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心理カウンセラーは共感しながら心理カウンセリングができるのか?

共感(共感的態度・共感的理解)への疑問:

心理カウンセラーは共感しながら心理カウンセリングができるのか? 何とも奇妙な問いかけです。
何が奇妙かと申しますと、この問いかけは共感あるいは共感的態度・共感的理解などと呼ばれる、心理カウンセラーにとって一般的に「必ず身につけなければならない」とされる技法ないし治療態度に対して疑問を投げかけているためです。

心理カウンセラーの共感に疑問を持つきっかけとなった自己洞察:

しかし最近私は、心理カウンセラーにとって必須とされる共感が果たして本当に可能なことなのかと疑問を感じるようになりました。
きっかけは自分自身の過去の辛い出来事を回想していたときです。
このときの私は過去に精神的苦痛を感じたことを思い出すことはできても、そのとき感じていた精神的苦痛をリアルに感じる(再体験する)ことができませんでした。
つまり過去の辛い出来事を単に「そんなこともあった」として知的に思い出すことはできても、その辛さを実感することはできなかったのです。
※関連ブログ:知性化の防衛機制による精神的苦痛を伴う出来事のエピソード記憶化-本による自己分析・治療
過去の自分の精神的苦痛すら情緒的に感じられないのに、心理カウンセリングの場で他人であるクライエントの精神的苦痛を感じることなどできるのだろうか?
こうして私は今までそれが可能であることに疑問を感じることのなかった共感という概念に対して、疑いの目を向けるようになりました。

精神的苦痛は同時に身体的苦痛を伴う:

生理学の知見によれば人は恐怖や不安などを感じると自律神経が交感神経優位の状態に変化し、その結果心拍数上昇(動悸)・血圧上昇・発汗・筋肉の収縮(肩こりや筋肉痛の一因)などの身体反応が「自動的に」生じるそうです。
このように精神的な苦痛は単に心の状態にとどまらず、必然的に身体的反応、それも苦痛な身体的反応(身体的苦痛)を同時に引き起こします。
つまり心の病をはじめとして精神的苦痛を生じる症状の多くは、情動と呼ばれる体全体で感じられる苦痛として体験されます。
これは実際に強い不安や恐怖を体験されたことのある方でしたら、よくご存知のことと思われます。
以上の考察を念頭に心理カウンセリングの場で生じる共感に目を向けてみますと、次のようなことが言えます。

共感とは情緒的な実感を伴った理解:

定義によれば共感とはクライエントの精神的苦痛を情緒的な実感を伴いながら理解する行為を指します。
単に「あぁ、このクライエントは、こういうことで辛いんだろうな」と頭だけで理解するのは共感とは呼べません。
つまり共感とはクライエントが感じている苦痛を、頭の中でイメージするだけではなく、体全体で感じ取る行為と言えます。

共感しながら心理カウンセリングはできない-パニック障害の例:

ではこの共感が心理カウンセラーに生じるプロセスをパニック障害を例に考察してみます。
なおパニック障害とは、パニック発作と呼ばれる「このまま死んでしまうのではないか」と不安に駆られるほどの激しい発作に突然見舞われ、さらにその発作がいつ襲ってくるのか分からないことから「また発作に襲われるのではないか?」と常に不安に苛まれる精神疾患を指します。
もし心理カウンセラーがクライエントの話すパニック発作に伴う恐怖や不安をリアルに感じ取ることができたとしますと(これが共感です)その瞬間、心理カウンセラーはクライエントがかつて体験したと同様の状態、つまり発作の恐怖に圧倒されパニックを起こしかねない状態になっているはずです。
なぜなら「あたかもクライエントが体験するように」深い情緒を伴って実感することが共感であるためです。
するとここで一つの疑問が生じます。「はたしてパニックを起こしながら心理カウンセリングを続けることなど可能なのか?」と…
考えるまでもなく答えはノーでしょう。パニックを起こしながら冷静さを保つことなど不可能でしょうから。
このことは他の精神疾患についても同様です。たとえばうつ病のクライエントの心理状態に完全に共感してしまっては、心理カウンセリングを行う意欲すら失われてしまいかねません。

共感とはクライエントの心理状態を情緒的に「かすかに」感じ取る行為:

おそらく共感と呼ばれる状態は、クライエントの心理状態に完全に同化してしまうものではなく、そうかといって情緒が切り離され知的に感じる(解釈する)状態とも違う、その中間の状態。
つまりクライエントの心理状態を情動(身体感覚)を伴いつつも、それを冷静さを失わない程度に「かすかに」感じ取る行為ではないかと考えられます。
もし仮に心理カウンセラーが共感的理解に努めた結果、クライエントの体験する心理状態を身体的な情動を伴い感じえたとしても、それは不安や恐怖心の程度において大きな温度差があるはずです。
以上のことから、これまで心理カウンセラーの共感によりもたらされたと考えられていた治療効果の多くは、実際は心理カウンセラーが共感に努めた結果生じる共感とは別の何かによるものであると推測されます。

共感とは違う別の何かを促す傾聴:

また傾聴と呼ばれる心理療法についても、それは完璧な意味での共感(的理解)をもたらす技法ではなく、やはり「共感とは別の何か」をもたらす心理療法なのではないかと考えられます。
たとえばナラティブセラピーの理論において傾聴は、クライエントを苦しめているドミナン・トストーリーから解放し、それとは別のより有意義なストーリー(オルタナティブ・ストーリー)の出現を促すための技法と位置づけられています。
参考文献:物語りとしての心理療法-ナラティブセラピーの魅力 第5章
共感をテーマとした心理学の本

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