R・フィッシュ、J・H・ウィークランド、L・シーガル著『変化の技法-MRI短期集中療法』

ブリーフセラピーの真髄は「常識からの脱却」

ブリーフセラピーのよく知られた格言について考察する記事。
1ページ目では「上手くいっているなら、もっとそれを続けろ」の実践例として、『激レアさんを連れてきた。』に出演されたCMタレントのミツキさんのエピソードを紹介し、2ページ目ではその実践の難しさについて触れました。

続くこのページでは、ブリーフセラピーのもう一つの格言についても同様の検討を重ね、最後に私なりに感じたブリーフセラピーの真髄について触れます。

格言「上手くいっていないなら、別のことを試せ」の実践の難しさ

ブリーフセラピーのよく知られたもう一つの格言に「上手くいっていないなら、別のことを試せ」というものがあります。
一見当たり前のことを言っているように思えますが、こちらも2ページで検討した格言と同様、常識的な見解がそれを阻んでしまうことが多々あります。

以前に紹介した『変化の技法-MRI短期集中療法』も、主にこの二つ目の格言を実践するためのブリーフセラピーの手引きと言えるものですが、同書では「解決のための努力が、かえって問題を持続させてしまっている」点が強調されています。
そして問題が解決した事例を元に、それに代わる方策が紹介されていますが、これらの方策は正直とても奇妙に思えます。
なぜなら同書で紹介されている解決手段の多くが、常識はずれで奇をてらったもののように思えるためです。
この点は同書の第5章「患者の立場」の冒頭の次の文章に集約されています。

患者が彼なりに自分の問題を解決しようと試みてきた「解決策」は、たとえ失敗に終わっても、患者にとっては唯一の道理にかなった、まともな、救いの道とみなされている。
したがって患者にその「解決策」を捨てさせ、その代わりに平素気狂い沙汰だとか危険だとかと考えている方法を取らせることが治療を短期集中的に行ううえで不可欠な第一歩となる。

ここで注意が必要なのは、ここで想定されているクライエント像は、重症の精神疾患とは限らないということです。
つまりこの記述は、クライエントが重症ゆえに常識はずれの解決策を試みているため、それを止めさせなければならないという意味ではなく、どのようなクライエントもその人なりの常識に則った解決を試みているが、残念ながらそれが功を奏していないため、とにかく方法を変える必要があることを示しています。

しかしその代替策は「平素気狂い沙汰だとか危険だとかと考えている方法」と表現されているように、クライエントにとって簡単に受け入れられるものではありません。
これが理屈抜きに「とにかく方法を変える」ことの難しさです。

ブリーフセラピーの真髄は「常識からの脱却」

以上のことから、ブリーフセラピーの二つの格言が示唆しているのは、まずは1ページ目で示したCMオーディションの例のように、成功要因らしきものが見つかったら、たとえ確信が持てなくても、とにかくそれを続けてみる。
それに対して、これまでの解決策では行き詰まってしまっているのなら、これも確信が持てなくても、思いついたことをどんどん試してみる。

このように常識に囚われることなく解決策を模索・実行することこそが、ブリーフセラピーの真髄ではないかと考えられます。

とはいえ通常は「常識的な解決策」が一番役立つ

もっとも多くの場面では、常識的な解決策でも概ね成果が得られるはずで、だからこそ、それらは常識として機能しているのだと思います。
しかし、ひとたびこの常識が通用しない事態に陥ってしまったときは、ブリーフセラピー的な柔軟な発想が求められるのではないかと考えられます。

引用文献

R・フィッシュ、J・H・ウィークランド、L・シーガル著『変化の技法-MRI短期集中療法』、金剛出版、1986年

R・フィッシュ、J・H・ウィークランド、L・シーガル著『変化の技法-MRI短期集中療法』
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