要約:子供が感じる「不自由さ」を基準に過干渉と過保護を分類するとともに、両者のような親の関わり方がそれぞれ「抑うつ型(過敏型)」「誇大型(無関心型)」という二つの異なるタイプの自己愛性パーソナリティの要因となる可能性を示しました。
今回の記事は少し前にFBページの投稿で予告致しました、過干渉と過保護が異なるタイプの自己愛性パーソナリティを生み出すことに加えて、世間ではこの過干渉と過保護とが混同されているようにように思えますので、それぞれの内容についても簡単に整理致します。
過干渉と過保護の違い
過干渉と過保護の定義は、専門家の間でも必ずしも一致を見ていないようですが、私は次のような違いがあると理解しています。
過干渉
(多くの場合、心配なあまり)子どものあらゆることに干渉し、その結果子どもの自由を著しく奪ってしまう親の態度。
過保護
子どもの欲求に制限を設けることができないために子どもの言いなりになってしまう、あるいは子どもの自由を過度に尊重してしまう親の態度。
以上のように両者には、子どもの自由度に関して両極端の違いが見られます。
そしてこのことは子どもの側からも感じられることです。
特に過干渉では、よほど重症でない限りは、ほとんど例外なく子どもは時にかなりの不自由さを感じているはずです。
過干渉と過保護が生み出す自己愛性パーソナリティのタイプの違い
続いて、この過干渉と過保護が生み出しやすい自己愛的な性格構造(自己愛性パーソナリティ)のタイプについて記述します。
過干渉は抑うつ型・過敏型の自己愛性パーソナリティの温床となりやすい
まず過干渉の親の元で育った子どもは、その親の態度に反抗できない限りは、何でも親の言いなりになるような人生を送ることになります。
このような子どもの人生の目的は、もっぱら親を喜ばしたり親から褒めてもらうことであるため、親とは異なる自分自身の欲求というものがほとんど存在しません。
仮にそのようなものを感じることがあったとしても、その多くは親の期待を取り込み、それを自分自身の欲求と錯覚していることが少なくありません。
このため過干渉の親の元で育った子どもは、価値判断の基準を自分の中にほとんど持たず、それを親に全面的に委ねているため、その後も自分の価値を決定する絶対的な権力を有した親の顔色を常に伺い、その親の態度に怯え一喜一憂するような毎日を送ることになります。
補足) ただし常に親の顔色を伺うような生活は多大なストレスともなるため、そのような態度を強いる親に対する激しい恨みが生じることも少なくなく、時に我慢の限界に達して家庭内暴力に及ぶケースもあります。
この場合は一時的にせよ主従関係が逆転することになります。
以上のような要因から、過干渉の親の元で育った子どもは、自己愛講座1で触れた「他者からの肯定的な評価による自尊感情の維持に常に心を奪われている」という自己愛性パーソナリティの判別基準を満たすことに加えて、(主従関係の逆転が生じなければ)親の態度に怯え一喜一憂する不安な日々の繰り返しから気分が落ち込みがちとなり、また何事にも自信を持てなくなります。
そしてこのようなナルシスティックな印象とは大きく異なるタイプの自己愛性パーソナリティは抑うつ型の自己愛性パーソナリティ、あるいは他人からの評価に非常に敏感であることから過敏型の自己愛性パーソナリティと呼ばれています。
※抑うつ型・過敏型の自己愛性パーソナリティの詳しい特徴については、後述の誇大型・無関心型の自己愛性パーソナリティとともに別の機会に譲ります。
過保護は誇大型・無関心型の自己愛性パーソナリティの温床となりやすい
続いて過保護と自己愛性パーソナリティとの関係について記述しますが、こちらの関係は前述の過干渉のケースとは異なり、容易に想像がつくものです。
過保護の親の元で育った子どもは、社会に適応して生きていくために必要な欲求の制限を受けることなく成長してしまうため、万能感や誇大感と呼ばれる「望めば何でも叶えられる」かのような錯覚を生じやすくなり、このことが家庭外の世界における対人関係のトラブルを頻発させることになります。
このタイプの人は抑うつ型・過敏型の人と同じく「他者からの肯定的な評価による自尊感情の維持に常に心を奪われている」という自己愛性パーソナリティの特徴を備えながらも、別の機会に詳しく説明する防衛機制と呼ばれる心の働きの強さによって、抑うつ型・過敏型の人のような不安をそれほど感じることがないため、むしろ自信満々な印象を与えます。
しかしその自信は周囲の人から見れば何ら裏付けのないものに写るため自画自賛しているようにしか思えず、この特徴から誇大型の自己愛性パーソナリティと呼ばれています。
またその自画自賛の様は、他人の評価などまるで気にならないかのような印象を与えるため、無関心型と言われることもあります。
補足) ただし複数の精神分析の流派では、誇大型の自己愛性パーソナリティの人が他人からの評価に無関心のように見えるのはあくまで表面的なもので、心の奥底ではその評価に気が気でなく、しかしその辛さゆえに意識から遠ざける(目を背ける)習慣がついていると想定されています。
次回は今回記述できなかった過干渉と過保護を生み出す親の心理について考察し、抑うつ型・過敏型および誇大型・無関心型の自己愛性パーソナリティのより詳しい解説はその次に回す予定です。
参考文献
ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』、創元社、2005年
岡野憲一郎著『恥と自己愛の精神分析:対人恐怖から差別論まで』、岩崎学術出版社、1998年
G.O. ギャバード著『精神力動的精神医学 第5版―その臨床実践』、岩崎学術出版社、2019年