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認知症介護はファンタジー、心理療法はアート-統合失調症への間主観性心理学的アプローチ

認知症介護はファンタジー、心理療法はアート:

先日のNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』で介護はファンタジーと題して、大谷るみ子さんという方の認知症介護の仕事の様子が紹介されていました。
番組の中で印象的だったのは大谷るみ子さんの「たとえ認知症の方の行為が支離滅裂で行動障害に思えたとしても、それは『どうしてよいのか分からない』からであり、必ずその方なりの努力の跡が見られる」旨の言葉でした。
おそらく番組のタイトルの「介護はファンタジー」とは認知症の方の心理を理解するためにはファンタジー(空想力・想像力)を働かせる必要があることを示しているように思えます。
ファンタジーの必要性は心理カウンセリングでも等しく重要視され、しばしば心理療法はアートという言葉で表現されます。
なお、ここでいう「心理療法はアート」とはアートセラピーの重要性を示すものではなく、クライエントの心理を共感的に理解するためには(認知症介護と同じく)ファンタジーを働かす必要があること、およびアートセラピーに限らず、すべての心理療法はマニュアルどおり進むことは決してなく、その都度工夫が必要であることを表現したものです。

効率性・経済性重視の認知症介護・心理カウンセリング(心理療法)の現場:

しかし現実は、認知症介護・心理カウンセリング双方の現場においても効率経済性が重視されるあまり、サービスを受ける方の個性は無視される傾向にあるようです。
このことは新しく開発される心理療法にも端的に示されています。近年登場した心理療法の多くは細かく手順が決められており(500ページを超える技法書も少なくありません)、その手順に従ってシステマティックに進められるもので、そこに心理カウンセラーのファンタジーが発揮される余地は限られています。
またそのような心理療法は治療回数や期間に上限があり、ブリーフセラピー(短期療法)の性格が強いもの、つまり効率・経済性重視という特徴があります。

統合失調症への間主観性心理学的アプローチの有効性:

少々話がそれてしまいましたので、大谷るみ子さんの認知症介護の話に戻ります。
認知症とは脳細胞の萎縮などの器質的(身体的)な原因で生じる精神障害ですから、もし大谷さんがおっしゃるように「認知症の方の行動が、その方なりの努力の現われ」であるといたします、同じく脳の器質的な障害が原因の精神障害とされる統合失調症においても同様に、つまり症状を単なる妄想と片付けるのではなく、その方なりの努力の跡として理解する価値があるように思えてなりません。
統合失調症の治療に対するこのような試み(治療態度)は、例えば間主観性心理学の提唱者ストロロウの『間主観的アプローチ-コフートの自己心理学を超えて』の中の統合失調症の症例でも示されていますし、古くはR.D.レインの『ひき裂かれた自己-分裂病と分裂病質の実存的研究』やハロルド.F.サールズの『逆転移-分裂病精神療法論集』などの著作にも見られます。
また私自身の統合失調症の方との心理カウンセリングの経験(ただしメールカウンセリングのみ)でも、上述の間主観性心理学的な治療態度はクライエントに治療への陽性的な反応を生じさせたようですし、受容的な態度が原因で要求がエスカレートするようなことも見られませんでした。
したがって間主観性心理学の、クライエントの行為や態度・思考パターンなどを不適応の証としてではなく、クライエントなりの適応の努力として理解する治療態度は、病理水準(神経症・境界性人格障害統合失調症)にかかわらず有効であると考えられます。
※以上のことは抗精神病薬をはじめとした向精神薬の治療効果を否定するものではありません。
妄想や幻聴・幻覚が消失ないし軽減することは、統合失調症の方にとって精神的・身体的苦痛の緩和という計り知れないメリットがあるはずです。

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