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カウンセリングが長期化しがちな要因を探る記事。
1ページ目では、カウンセリング・サービスの多くが最初から複数回のセッションを想定している実状を示しました。

またその要因を多くのサービスでは主訴と呼ばれるクライエントが現在直面している悩み事に直接アプローチするのではなく、相談内容を含めクライエントという一人の人間の存在を、評価を加えることなくありのままに受け止め続けることに主眼が置かれているからではないかと想定しました。

続くこのページでは、多くのカウンセラーがなぜこのようなアプローチを採用しているのかを、私自身の経験も交えながら考察いたします。

クライエント中心療法がカウンセリングの基本と教わる

日本の多くのトレーニング機関では、カール・ロジャーズが生み出したクライエント中心療法がカウンセリングの基本中の基本であるとして、この心理療法の具体的な技法である傾聴の仕方を徹底的に叩き込まれるようです。

さらにこの「基本」という位置づけがクライエント中心療法に絶大な権威をもたらすためなのか、トレーニングの組織内にはこの心理療法を非常に理想視する、裏を返せば少しでも疑問を呈することをタブー視するような空気が流れており、例えば私自身もあるときロールプレイングのクライエント役の振り返りとして不用意に理論に反するようなコメントをしてしまい、指導教官から「そんなことを感じるのは、あなただけだ」と厳しく叱責されたことがありました。

※ただしこの種の理想化の空気は、日本ではどの心理療法においても多少なりとも感じられるものです。

このため多分にこうした風潮の中で育った日本のカウンセラーは、クライエント中心療法を用いることがカウンセラーとしての本分であるとの信念を抱くようになり、実務についてからもその教えを忠実に実践されているのではないかと考えられます。

クライエント中心療法では「自己一致」の実現が目標とみなされている

続いてカウンセリングのセッションでクライエント中心療法のみを用いることが、カウンセリングの長期化につながりやすい要因について触れます。

その主な原因は、この技法の治癒のプロセスに関する想定にあると考えられます。
私の理解では、ロジャーズは心の不調の根本的な原因を自己不一致と考え、したがってこの不健全な状態を自己一致という元の健全な状態へと戻すことが必要であると考えていました。

そしてそれを可能とするのがクライエント中心療法であり、またその具体的な技法である傾聴というわけです。

さらにロジャーズの中期の代表作『クライアント中心療法 (ロジャーズ主要著作集2)』の内容から判断するに、「自己一致-自己不一致」という概念では、「人間は生まれた瞬間の完全に自己一致した状態から、その後社会に適応するために否応なく自己不一致の状態を強いられていく」ことが想定されているようです。

だとすると現在の自己不一致の状態は、日々の社会的な営みの中で非常に長い年月をかけて形成されたものであると想定されるため、いくら効果的な手段を用いたとしても、それを元の状態に戻すためにはそれなりの時間を要すると考えるのが妥当ではないかと思われます。

以上のようにクライエント中心療法では、主訴と呼ばれるクライエントが現在抱える悩みの解決よりも、ベースとなる心の状態の根本的な変化に力点が置かれているため、必然的にセッションが長期化せざるを得なくなっているのではないかと考えられます。

なおこの点は同じくロジャーズの初期の代表作『カウンセリングと心理療法―実践のための新しい概念(ロジャーズ主要著作集1)』の32ページでも明確に示されています。

(のちのクライアント中心療法へと至る非指示的なアプローチについて)その目的は、ある特定の問題を解決することではなく、個人が現在の問題のみならず将来の問題に対しても、より統合された仕方で対処できるように、その個人が成長するのを援助することである。

次のページでは、このようなロジャーズ流のカウンセリングの目標が、果たしてすべてのクライエントにとっても有益といえるのかについて、私見も交えながら検討する予定です。

参考・引用文献

カール・R.ロジャーズ著『カウンセリングと心理療法―実践のための新しい概念 (ロジャーズ主要著作集1)』、岩崎学術出版社、2005年
カール・R.ロジャーズ著『クライアント中心療法 (ロジャーズ主要著作集2)』、岩崎学術出版社、2005年

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