要約:新型コロナウイルスの濃厚接触による感染経路の中で会食が比較的少ないのは、日本人は総じて羞恥心が強いため、保健所などの担当者から非難される恐れを感じて、思い当たる感染機会として「会食」を挙げることを躊躇し「不明」などと申告している可能性がある。
目次:
家庭内感染と比べて、会食による感染の割合が非常に低いことへの疑問
感染経路の把握の大半は、陽性者の自己申告によるものと推定
日本人は総じて、他人から悪く思われることを非常に恐れている
非難を恐れて、会食を原因とした感染の多くがデータに反映されていない可能性
追記) 会食に同席した人への迷惑を避ける狙いも
家庭内感染と比べて、会食による感染の割合が非常に低いことへの疑問
新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い申しあげます。
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第三波が急速な広がりを見せ、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県から政府に対して緊急事態宣言の発令の要請がなされる事態となっております。
また昨年の5月に懸念記事を書いた家庭内感染も急増しているようです。
これらに加えて日々の感染データを見ていて気になっていることがあり、それは感染経路に占める会食の割合が想定より低いことです。
私はいつもNHKのニュースサイトで日本国内の感染者数の推移などをテェックしていますが、東京都に関しては感染経路まで詳しく報じられていました。
(ただし今年に入ってから、その情報は掲載されなくなりました)
そのNHKによる感染経路のデータによれば、もっとも多い家庭内感染と会食による感染との比率は、昨年の11月はおよそ5:1、12月は10:1と、いずれの時期も家庭内感染に比べて会食による感染の割合は非常に少ないことになっています。
しかしこのデータは、しばしば感染症の専門家の方々から表明される「家庭内感染は会食などによりウイルスが外から持ち込まれたことが要因」旨の見解と矛盾しているように思えます。
感染経路の把握の大半は、陽性者の自己申告によるものと推定
感染経路の把握に関して日本では、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)が導入されていますが、昨年の11月時点のダウンロード数が約2,000万と、この種のアプリが有効と考えられる普及率の60%を大きく下回っています。
したがって感染経路の把握の大半は、保健所などでの陽性者への問診、つまりは自己申告によるものであると推定されます。
ここで私が懸念を抱くのが、PCR検査などにより陽性と判定された感染者の方々が、果たしてどの程度思い当たる感染経路を正直に伝えているのかという点です。
日本人は総じて、他人から悪く思われることを非常に恐れている
以前に罪悪感と恥との違いに関する記事を掲載しましたが、この記事の中で恥という感覚には、恥ずかしいという気持ちに加えて、他人から非難されたりするなど悪い人間と思われることを恐れる感覚も含まれることを紹介しました。
加えてその記事の2ページ目では、他人から悪い人間と思われることを恐れる感覚は、それがまだ現実のものとなっていなくても、そうなるかもしれないと想像しただけで不安に駆られる性質のものでもあることも記載しました。
日本社会はよく恥の文化と称されるように、羞恥心が非常に強い人が多いという特徴があり、それは世間体という言葉にも象徴されています。
非難を恐れて、会食を原因とした感染の多くがデータに反映されていない可能性
話を感染経路の把握に戻すと、それが家庭内や職場である場合、そのことで非難される恐れを抱く人は恐らくほとんどいないでしょう。
なぜなら現状では感染を避けるために家族といえども別々に暮らすべきとまでは考えられておらず、また会社員の方の多くは働く場所を自由には選べないためです。
ところが感染経路が会食となると、話はまったく別です。
厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症について」というページには、特に感染リスクが高まる場面が5つ挙げられていますが、会食はそのうちの3つに該当する非常にリスクの高い行為です。
加えてこの行為は、個人の意思で避けることができるものでもあります。
このような事情から会食は感染拡大の主たる要因とみなされており、今回の緊急事態宣言の再発令の要請においても、真っ先に自粛要請の候補に挙げられています。
これらのことから会食が原因で感染してしまったことを明らかにするのは相当な非難を浴びる覚悟が必要な行為とみなされており、その不安の強さから保健所などでの感染経路の確認に際しても、とっさにごまかす心理が働いても不思議はないと考えられます。
このため私自身は、昨年までNHKのサイトで公表されていた感染経路の中の会食の数字は実態よりもかなり少ないと想定しており、このため特に酒を提供する飲食店に対して重点的に自粛要請を行うことは、当事者の方は大変お気の毒ですが妥当な措置であると考えています。
追記) 会食に同席した人への迷惑を避ける狙いも
投稿後この記事をご覧いただいた方から、思い当たる感染経路として会食を挙げることをためらう別の要因として、同席した人へ迷惑がかかることを避ける狙いもあるのでは、との指摘をいただきました。
確かに会食に同席した人は長時間近距離で会話を交わしていたとみなされ、濃厚接触者としてPCR検査を受けることになるでしょうから、そうした迷惑がからないように配慮する心理が働く可能性も大いにありそうです。
もっとも無意識の働きを重視する古典的な精神分析理論では、この他者を思いやっての行為に対しても、無意識のレベルでは「その人との関係を悪くしたくない」「その人から悪く思われたくない」との自己中心的な心理の存在を想定することも補足しておきます。