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前回の記事「ミック・クーパー著『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究』〜個々の心理療法のエビデンスだけでは不十分なことを提示」の記事で、あくまで推定値ではありますがカウンセリングの効果に影響を与える因子のデータを引用しました。
そのデータによれば、技法(心理療法)の違いよりもセラピスト-クライアント関係とも呼ばれる両者の関係の質の影響の方が遥かに大きいことが示唆されています。

今回はエビデンスに基づく研究ではありませんが、その推定値の妥当性を示唆する事柄を示す本を紹介します。

異なる技法を用いながら、セッションの進め方が驚くほど酷似することが起こり得る

これまで幾つかの記事で、プロセスワーク(プロセス指向心理学)と呼ばれるユング心理学から派生した心理療法の理論を援用してきましたが、その創始者のアーノルド・ミンデルのパートナーのエイミー・ミンデルの著書に『メタスキル―心理療法の鍵を握るセラピストの姿勢』があります。
(昨年の引越しの際に処分してしまったため、残念ながら本の画像はありません)

同書の記述の大半はプロセスワークについてのものですが、核となるのはメタスキルと呼ばれる、技法の違いを超えてセラピーの成否の鍵を握る「何か」の探求です。

そしてその「何か」をエイミー氏はセラピストの信念と仮定し、その例としてユング心理学とゲシュタルト・セラピーという異なる技法を用いる熟練のセラピストのセッションの様子が驚くほど酷似していることを挙げています。

心理療法は手順が規定されているものばかりではない

こうした現象が起こる理由として考えられる要因の1つは、前述の両技法が認知療法などのように手順が決まっている訳ではないことです。
手順が厳密に定まっていなければ、それだけ裁量の余地が生じ、その裁量の部分にセラピスト個人の価値観が反映されやすくなりますので、同じ技法を用いていながらもアプローチの仕方が変わってきます。

その中には自己心理学から派生した間主観的アプローチのように、基本的な態度のみを記した指針が提示されているだけで、具体的な方策は何も示されず、それはセッションの場で編み出すものであることを念頭に置いた、もはや技法とは呼べないような心理療法も存在します。

完璧あるいは万能な心理療法は未だに存在しない

もう1つの要因は、現時点ではすべてのケースはもちろんのこと、特定の症状に対してさえも必ず効果が見込めるような(完璧あるいは万能な)技法は1つも見つかっていないことです。
このためセッションが行き詰まれば、教わった技法を忠実に守ることに固執するようなセラピストでもない限りは、その打開のために何らかの修正を迫られることとなり、複数の技法を試したり、もしくは独自の工夫を試みることになります。

なお後者のような工夫が必要となるのは、主要な技法に限ったとしても、時間的制約から1人のセラピストがそのすべてを習得するのは不可能であり、そのため限られた数の習得した技法すべてを使い果たしてしまえば、その場の創意工夫に頼らざるを得ないためです。

またそれ以外にも工夫が必要となる非常に重要な要因が存在しますが、説明が大部になるため、ここでは実際のセッションでは技法を規定された手順通りにスムーズに使えることは滅多にないことのみを記しておきます。

以上のように心理療法の中には裁量の余地が高いものが少なからず存在することに加え、手順が定められた技法であっても様々な要因から工夫や変更を余儀なくされることがしばしばあるため、半ば必然的にセラピストの個性が発揮されることとなり、このような事情から『メタスキル』で指摘されているような異なる技法を用いるセラピストであってもセッションの様子が似てくるケースが起こり得るのではないかと考えられます。

紹介文献

エイミー・ミンデル著『メタスキル―心理療法の鍵を握るセラピストの姿勢』、コスモスライブラリー、2001年

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