鈴木翔著、本田由紀解説『教室内(スクール)カースト (光文社新書)』

スクールカーストの心理的要因~生徒、教師ともに自己愛的な性格構造の人が過半数を占めるような学校で形成・維持される

スクールカーストの形成要因について心理学的に分析する記事。1ページ目ではNHKの関連番組の告知と共に、スクールカーストと呼ばれる教室内の序列が自然発生的に生じるものではなく、生徒や教師によって形作られるものであり、その要因を個々人の自己愛的な性格構造と想定しました。
このページ以降では、その私なりの根拠を示していきます。

スクールカーストの形成要因その1~「理想化-価値下げ」の防衛機制を多用する人々の集まり

スクールカーストの形成要因と考えられる、個々人の自己愛的な性格構造を最も特徴づけているものは自己愛講座8でも取り上げた「理想化-価値下げ」と呼ばれる防衛機制の多用です。
この防衛機制には次のような特徴があります。

補足) 防衛機制とは精神分析用語で、心を傷つきから守る働きの総称です。

「理想化-価値下げ」の特徴その1~人間関係を常に優劣で判断する

「理想化-価値下げ」の防衛機制を多用する人には、人間関係を常に優劣で判断するという特徴があります。
この場合、自分の方が優れていると感じれば相手に対して優越感を感じて気分が良くなりますが、その逆ですと自分がとても惨めに感じられ辛くなってしまいます。

補足) この辛さについては、次ページ以降の「理想自己」「完全主義」などの項目で詳しく述べる予定です。

自己愛的な人にとって人間関係とは、地位をめぐる戦い

またここでの「人間関係を常に優劣で判断する」とは、より具体的には些細なことも含めて、あらゆる違いを感じ取り、その違いに優劣という価値観を加えることを意味します。

このため自己愛的な人は、他人との間に無数の優劣関係を作り出し、その優劣に一喜一憂するような生活を送りがちになります。

他人との優劣に過敏な自己愛的な生徒が多く集まることで、即座にカーストが形成される

社会学者の鈴木翔さんが、自ら実施したアンケートやインタビューに基づきスクールカーストを検証した『教室内カースト』によれば、スクールカーストが存在する学校では、1軍、2軍、3軍といった地位の序列が登校初日から形成され始め、3日も経てば固定化され、さらにその序列を(解消させるのではなく)把握することが教師の務めと考えられているようです。

このようにカーストと呼ばれるほど厳しい序列が、非常に速やかに形成される背景には、生徒個々人の心の中に、前述の自己愛的な人の特徴の1つである、差異に対して優劣関係を、それも昔の身分制度に比敵するような著しい権力の差を付与する傾向が存在しているからではないかと考えられます。

差異が存在すれば、自動的にカーストが形成されるわけではありません。その差異に著しい権力の差が付与されてはじめて、カーストと称される地位の差がもたらす支配=従属関係が成立します。

「差異=カースト」ではない

またこの世に同じ容姿で、なおかつまったく同じ人生を送ってきた人など存在しません。その意味で差異は見つけようとすれば幾らでも見つけることができます。
自己愛的な人と非自己愛的な人との違いは、その差異に優劣という価値観を反映させ、さらにその優劣に基づく権力構造を構築する頻度やその極端さです。

個々人が時々優劣を感じる程度では、カーストと呼ばれるほどの権力構造は生まれません。
その種の権力構造は常に他人との優劣に心を奪われているような人々が集まり、かつ主流層を形成することで、その集団内の常識として機能することではじめて生まれるものと考えられます。

但し今回の解釈だけでは、人々がそれぞれのカーストに分かれる要因までは判別できません。
そこで次のページでは自己愛的な人の別の特徴を援用して考察する予定です。

参考文献

鈴木翔著、本田由紀解説『教室内(スクール)カースト (光文社新書)』、光文社、2012年
ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』、創元社、2005年

鈴木翔著、本田由紀解説『教室内(スクール)カースト (光文社新書)』
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