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引きこもりの原因となり、その解決を阻む要因ともなる自己愛的な心理

引きこもりの原因として自己愛的な心理の存在を想定する記事の3ページでは、その自己愛的な心理が回復のためのサポートを受ける際にもネックとなる可能性について考察します。

引きこもりから抜け出す自信を覗かせる当事者の方

これまでのページで援用して来たハートネットTV「ひきこもり新時代 わたしたちの文学」を拝見しながら感じたことの1つは、当事者の方々の話や態度などから辛さがあまり感じられないというものでした。

このことは特に3番目に登場した当事者の方から感じられました。
その方は人気女優の名前を挙げて、その女優が目の前に現れて優しく接してくれたら今すぐにでも引きこもりから抜け出す自信がある旨のことを仰っていました。

恐らくこの方は、大ファンの女優との間に本当にそのようなことが起これば天にも昇る心地になり、その極上の体験が状況を一変させてくれるように思われたのでしょう。
ですが苦しい思いをされているはずの方から「抜け出す自信がある」と聞かされると、それほど深刻な状況ではないとの印象を受けるのではないでしょうか。

自己愛的な人は、悩み事を相談しても大したことではないとの印象を与えてしまう

実はこの「辛さが感じられない」という現象は、アセスメントの際に相談者の方を自己愛的な人と想定する重要な指標の1つとされています。

パーソナリティ障害の診断と治療』の「自己愛性パーソナリティ」の章に、自己愛的な人とのセッションでセラピストが経験することの典型として退屈さが挙げられています。
真剣に相談に来ている人の話を聞いて退屈さを感じるとは不謹慎と思われるかもしれませんが、このことは私自身も何度も経験しています。

これには、そうした相談者の方には次のような特徴があるためです。
・他人事のように淡々とした話ぶり
・世間話に近いような取り留めのない話が延々と続く

セラピストとの間でもこうしたことが生じるのは、辛い感情に触れるのが困難なため、それを避けるために様々な心理的機制が働いていたり、あるいは羞恥心が非常に強いケースなどが考えられますが、そのことを理屈の上では理解していたとしても、目の前にいる方から深刻さがまるで感じられなければ、そのような特徴のない方と同程度に親身になって接することは非常に難しくなります。

そして自己愛的な人とのセッションでセラピストが退屈さを頻繁に経験しているのならば、同じくメンタルのサポート的な仕事をされている引きこもり支援の現場の方が同様のタイプの人と接すれば、当然同じような経験をされることが予想されます。

退屈さを感じながら、なおかつその人を高いモチベーションで支援し続けることは、自己愛的な人との関わりが経験豊富な方でもない限り大変困難なはずです。
これが引きこもりの当事者の方が自己愛的なパーソナリティであった場合、支援を受ける際のネックとなりかねない理由です。

参考文献

ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』、創元社、2005年

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