先週、NHKの首都圏情報 ネタドリ!「医師になりたかったのに 東京医科大学 不正入試の波紋」と言う番組を拝見しました。
すでにニュースで知ってはいましたが、番組独自の取材により医療現場の受け止め方なども伝えられていたため、とても参考になりました。
番組の内容は、主に差別的な措置により不合格とされた女性の方々に焦点が当てられていました。
確かにお気の毒かつ許しがたい行為だと思います。
ただ私自身は、その措置により本来は不合格になるはずだった男性が合格すること自体にも大いに問題があると感じました。
今回はその点について書きます。
医師のハードワークを根拠に不正入試を容認する医療現場の声
まず番組の独自取材で明らかとなった点は、東京医科大学のような入試の措置は、医療現場の状況を考えると致し方ないとして容認する声が上がっていることでした。
またその根拠として次の点が挙げられていました。
医師の仕事にはハードワーク(過重労働)がつきものなので、女性ではそれに耐えられない
一見もっともらしい根拠に思えるかもしれませんが、私は疑問を感じました。
まず仮にそれを証明するような統計データが存在していたとしても、そのことが直ちに男女の生理学的な差異に基づくものとは断定できないと言うことです。
なぜなら、例えば未だに女性の家事負担率が圧倒的に高いことなどの様々なジェンダー格差が存在するため、条件面において男女の就業環境には不平等が生じているためです。
またそれに加えて、その医師のハードワークは以下に述べるように、東京医科大学のような入試の措置がその一因となっていると考えられるためです。
医学部の入学生の学習レベルの低下は、医師国家試験の受験生のレベル低下にも繋がる
今回明らかとなった男性の受験生のみに下駄を履かせる行為は、本来は不合格になるはずだった男性が合格することで、医学部の入学生全体の学習レベルの低下を招くことになるはずです。
そしてこの入学生の学習レベルの低下は、その後の医師国家試験の受験生のレベル低下にも当然繋がることになるでしょう。
国家資格の多くは世の中の需要に合わせて合格者数を調整している
もっとも、たとえ医師国家試験の受験生のレベルが低下したとしても試験の評価が絶対評価であれば、合格して医師になる人の能力レベルに影響はないでしょう。
ところが私の知る限り、国家資格の試験の評価方法は多分に相対評価に近いものとなっているようです。
例えば、以前に弁護士の数を増やすために合格者数を増やしたところ、そのことで弁護士の職務遂行能力が下がってしまったことがニュースで報じられたことがありました。
また私は若い頃に公認会計士を目指していた時期がありますが、その当時公認会計士の合格者数を減らすために、合格率が大幅に引き下げられたりもしていました。
これらの例のように、国家資格というものは世の中の需要に合わせて供給量をたびたび調整し、そのために合格者数を変化させているようです。
ですから、もし医師国家試験にも同じような調整力が働いているとすれば、受験生のレベルが低下した場合、合格者の一定数を確保するために受験レベルが引き下げられる可能性は十分あるように思えます。
そして、こうして医師の職務遂行能力が低下すれば作業能率や治療の成果が減少し、それを長時間労働でカバーするという事態に陥ってもおかしくないでしょう。
これが不正入試を医師の仕事の実態に合わせるためとしながらも、実はその要因となっているのではないかと考える根拠です。
もっとも医師の能力の低下の要因としては、別番組でのインタビューから察しますに、受験生の間では既によく知られた事実だったようですので、そうであれば既に不正入試を起因とした女性の医学部志望者の減少が生じていると考えられ、もしかしたらこちらの方の影響が大きいかもしれません。
以上のように医学部の不正入試は、その事のみならず複数の作用により、巡り巡って医師の能力の低下を招く事となり、したがってこのような不正行為を医療現場が容認する事は、自らの首を絞めるに等しい行為というのが私の考えです。