鈴木翔著、本田由紀解説『教室内(スクール)カースト (光文社新書)』

スクールカーストの心理的要因~生徒、教師ともに自己愛的な性格構造の人が過半数を占めるような学校で形成・維持される

スクールカーストと呼ばれる現象を自己愛的な心理の表れとして考察する記事。
2ページ目では自己愛的な人の心を特徴づける防衛機制の「理想化-価値下げ」が集団的に作用することにより、スクールカーストと呼ばれるほどの権力構造が生まれることを示しました。

このページではスクールカーストが自己愛性パーソナリティという同じ性格構造を持つ人の集まりでありながら、支配する側(1軍と呼ばれる上位グループ)とされる側(2軍と3軍と呼ばれる下位グループ)とに明確に分かれる理由を探って行きます。

スクールカーストの上位グループと下位グループの特徴

『教室内カースト』の著者の調査によれば、スクールカーストの上位グループと下位グループそれぞれに属する生徒には次のような特徴があるとされています。

上位グループ
・賑やかで声が大きい
・押しが強い(威圧的)
・仕切り屋

下位グループ
・大人しく地味

このように上位グループの生徒の特徴は色々と挙げられているのに、下位グループは僅か1つで、1軍の生徒や教師からは「強いて挙げれば、特徴がないのが特徴」とさえ思われているようです。

同じ自己愛的な性格と想定されながら、印象がこれだけ違うとは驚きかもしれませんが、自己愛に関する精神分析的なパーソナリティ理論を援用することで説明がつきます。

一般的な自己愛のイメージに近い1軍の生徒

『教室内カースト』によれば、1軍の生徒には何でも思い通りに要求を押し通す権利が与えられているため、教室内で毎日我が物顔で過ごしているようです。
これなどは一般的な自己愛のイメージである尊大・高圧的・特権意識と言った特徴と符合します。

これらの特徴は冒頭の防衛機制の理論で言えば、極論すれば自分(達)が「理想化」され、その反面2軍、3軍の生徒が「価値下げ」されることで、心の中に(限りなく)素晴らしい才能に満ち満ちた自分(達) vs 何のの取り柄もなく生きている価値さえない2軍、3軍どもという二分法の構図が生まれ、そのような世界が現実のものとなるように働きかけることで、スクールカーストが形成されるのではないかと考えられます。

対人恐怖症的な傾向が強い2軍、3軍の生徒

それに対して2軍、3軍に属する生徒は「大人しく地味」とのことですが、『教室内カースト』その他の情報源に目を通した私の印象では、少なくても2軍の生徒の多くは自己愛講座2で触れたような他人からの評価に非常に敏感、かつその他人の評価や力を過度に恐れる対人恐怖症的な傾向が強い、同じ自己愛でも隠れ自己愛・抑うつ型自己愛・過敏型自己愛などと呼ばれるタイプのように思えました。

こちらの特徴も同じく防衛機制の理論で言えば、他人の力が理想化されること過大視される反面、自分に関わることは過小評価されるため、何事にも自信が持てず臆病になりがちとなり、これが周囲に消極的な印象を与え、教師からも意欲がない生徒とみなされる一因となっているのではないかと考えられます。

また同様の過小評価から、1軍の理不尽な要求に対しても最初から「抵抗しても無駄」との考えが生じて従属的となり、これが数の上では主流派を形成する2軍の生徒が1軍の生徒に容易に支配される一因ではないかと考えられます。

補足) ここでの考察に3軍の生徒を含んでいないのは、スクールカースト内での評価とは裏腹に、この中ではむしろ最も健全性が高い可能性があると考えているためです。

躁的防衛の能力の差が上位グループと下位グループとの差を生み出す

このような両生徒の違いを生み出す最大の要因は、躁的防衛と呼ばれる実態以上に自分の能力や価値などを高く見積もることで気分を持ち上げる力の有無と考えられます。
この力の差によって自信過剰で尊大に振る舞う上位グループと、自分に自信がなく他人を恐れる下位グループとに二分されるのではないかと想定されます。

次のページでは、これまで見てきたスクールカーストが、1軍のみならず2軍の生徒からも必要不可欠なものと考えられているという興味深い現象について考察する予定です。

参考文献

鈴木翔著、本田由紀解説『教室内(スクール)カースト (光文社新書)』、光文社、2012年
岡野憲一郎著『恥と自己愛の精神分析:対人恐怖から差別論まで』、岩崎学術出版社、1998年
ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』、創元社、2005年

鈴木翔著、本田由紀解説『教室内(スクール)カースト (光文社新書)』
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