要約:引用記事で批判されている、スクールカウンセラーである臨床心理士の助言への非常に強い抵抗。問題のベースにはカウンセリング業界全体のクライエント中心療法偏重の風潮と、個々のカウンセラーのその流れへの追従とがあると考えられる。
クライアントから要請されている助言を拒むスクールカウンセラーの存在
最初に今回の記事で援用するWebページを提示いたします。
チーム学校~取材の現場から スクールカウンセラー 「助言しない」意識変革を(産経新聞) – Yahoo!ニュース
こちらはYahoo!ニュースに掲載された産経新聞の記事ですが、スクールカウンセラーに対するとても的を得た批判と感じました。
批判内容を私なりに要約いたしますと次のようになります。
スクールカウンセラーの制度を作った文科省の有識者会議によるガイドラインに「保護者への助言」と明記されているにもかかわらず、現場で職務を担うスクールカウンセラーの多くが「臨床心理士だから」という理由でその助言の実施を拒んでいる。
しかしその理由は「個人的な背景に過ぎず、自治体から採用されてスクールカウンセラーになったのなら、その責務を全うすべき」というものです。
仕事を請け負う立場としての常識を欠いた態度への批判
上述の産経新聞の批判はまったくその通りだと思います。
仕事の依頼主からの要請を意図的に拒んでいるのですから、仕事を請け負う立場としての常識を欠いた態度と思われても仕方がないように思えます。
しかも記事の内容から察しますに、こうした(ビジネスの慣習からすれば)非常識な臨床心理士がかなりの数に上っていることが予想されるため、このように一種の社会問題として取り上げられているのではないかと考えられます。
スクールカウンセラー制度のガイドライン
ちなみに次のリンク先が、記事で参照されているスクールカウンセラー制度のガイドラインと思われます。
児童生徒の教育相談の充実について~学校の教育力を高める組織的な教育相談体制づくり~(報告)
確かに10ページに「様々な技法を駆使して児童生徒、その保護者、教職員に対して、カウンセリン
グ、情報収集・見立て(アセスメント)や助言・援助(コンサルテーション)を行う」と明記されています。
またさらに記事の批判に直接該当する部分として、次の11ページの冒頭にも「SC(スクールカウンセラー)は、児童生徒への支援のため児童生徒に関する悩みや不安を抱える保護者との面談も行う。面談を通じて、児童生徒に対する理解と対応の仕方を保護者に対して助言する必要がある。」と書かれています。
ではなぜガイドラインに、ここまで明確に助言の必要性が謳われているにもかかわらず、スクールカウンセラーである臨床心理士の多くが抵抗を示すのでしょうか。
次のページでは、あくまで二次情報に基づく推測ではありますが、私なりにその理由を探ってみたいと考えております。
ちなみに臨床心理士ではない私に、こうした推測が可能なのも、私が資格を保有する産業カウンセラーの世界でも、非常に強い助言への抵抗が存在するためです。
補足) 問題の要因を心理面に限定して考察
なお冒頭のYahoo!ニュースのコメント欄には、スクールカウンセラーが助言できない理由として、短時間に非常に多くの業務をこなさなければならず、そうした制度設計自体に無理があるとして、職務を担う臨床心理士を擁護する意見が多数を占め、そうした意見に多くの「いいね」がつけられています。
それらの制度批判については私も同感です。ですが今回援用したニュース記事の取材に答えている複数の臨床心理士は、いずれもハードスケジュールではなく、臨床心理士という資格の責務として助言はできない旨の回答を行なっている、つまり自身の信念に基づくもののように思えました。
このため当記事の2ページ目以降では、スクールカウンセラーの制度設計の部分には言及せず、もっぱらそれを担う臨床心理士の心のうちを推測する形で考察を進めます。