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必要な助言を拒むスクールカウンセラーの根本的な要因は、心理職全体のクライエント中心療法偏重の風潮

スクールカウンセラーを務める臨床心理士への産経新聞の批判記事などを基に、スクールカウンセラーに求められている保護者への助言を拒む彼らの心性を考察する記事。
1ページ目では、批判内容の要約と、その見解を私が支持する理由を掲載いたしました。

続くこのページでは、なぜ臨床心理士の多くがそこまでして助言を避けるのか、その理由を推測いたします。

「臨床心理士倫理綱領」に助言を禁じる規定は存在しない

1ページ目でも参照した産経新聞の記事の内容からは、臨床心理士であるがゆえに、たとえ求められても助言はできないような規則が存在しているような印象を抱きます。

しかし知り合いの臨床心理士から、そのような規則の存在を聞いた記憶はありませんし、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の臨床心理士倫理綱領にも、助言を禁じる具体的な規定は存在しませんでした。

強いて挙げれば、同倫理綱領の第5条の<援助・介入技法>の「来談者の信頼感や依存心を不当に利用しないように留意しなければならない」旨の規定に、相談者からの助言の求めに応じる行為が抵触する可能性は考えられますが、少なくてもそこまで明言されてはいません。

したがって求められても助言できない理由が、何か別に存在するのではないかと考えられます。

助言を固く禁じるクライエント中心療法

心理相談業務において助言を禁じる存在として私が真っ先に思い浮かべるのは、カール・ロジャーズが開発したクライエント中心療法です。

クライエント中心療法には、極論すれば「クライエント(相談者)の抱える問題を解決できるのは、他ならぬクライエント自身である。そしてそのためのあらゆる問題を解決する能力が、クライエントの心の中に内在されている」との仮定が存在します。
このためカウンセラーには、その潜在的な能力を高めることに専念することが求められ、その具体的な技法が現在は企業などの組織においても導入が進んでいる傾聴です。

傾聴では、相談者の話を評価や批判することなく「ありのままに」受け止め、そうして理解した内容を相談者に伝え返す行為が求められます。

クライエント中心療法では、カウンセラーがこの傾聴に徹することでクライエントの問題解決能力が最大限に高まり、そうして自ずと問題の解決を図っていくことが想定されています。

このためクライエント中心療法の仮定からすれば、助言という行為は本来備わっているはずのクライエントの問題解決能力を阻害するものでしかありません。

日本の大多数の心理系の資格では「クライエント中心療法」がカウンセリングの基本と教わる

日本では臨床心理士のみならず、産業カウンセラーその他の心理系の資格取得においても、講義やトレーニングを通じて上述のクライエント中心療法が「カウンセリングの基本中の基本」であると教わるところが多いようです。
中には私も受講した産業カウンセラー養成講座のように、実技面においては傾聴の仕方のみを重点的に教わるところもあります。

こうして日本では、助言を厳しく禁じるクライエント中心療法に非常に高い価値が置かれた風潮の中で多くのカウンセラーが育っていくことになります。

このためこうしたカウンセラーが現場に出てからも教えを忠実に守るようなことになれば、今回取り上げたスクールカウンセラーのように、現場のニーズとの間に深刻なミスマッチが生じることになるのではないかと考えられます。

次とその次のページでは、このページで示したようなカウンセリング業界全体のクライエント中心療法偏重という構造的な問題があるとはいえ、それでもひとたびスクールカウンセリングの現場に出れば、むしろスクールカウンセラー個人の判断の影響の方が大きいと考える理由を述べます。

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