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引きこもりの原因となり、その解決を阻む要因ともなる自己愛的な心理

引きこもりに関係した自己愛的な心理の考察、2ページ目ではハートネットTV「ひきこもり新時代 わたしたちの文学」の内容を手掛かりに、具体的な解釈を記述していきます。

引きこもりの要因は性格因に限定

最初に今回の考察に関する前提条件を提示致します。

前のページにも記述しました通り、この記事は引きこもりの要因を当事者の方個人の心理的な要因のみに限定して考察しております。
このため、いじめやハラスメント、虐待などの深刻な外傷体験が存在する場合は、当然それらの環境因が引きこもりの主たる要因であることが予想されます。

また発達障害などの生理学かつ先天的な要因が強く疑われる事象の存在も、考察の対象外としております。

したがって本記事は、性格因と呼ばれる長年の経験により徐々に形成された考え方の特性などを、引きこもりの要因の考察対象としております。

自動思考「過度の一般化」

番組に登場した1人目の当事者の方は、バブル時代を経験されたAさんです。
Aさんは、バブルの未曾有の好景気に浮かれるかのように毎晩豪勢な生活を送る人々に強い違和感を感じたため、周囲の人々と馴染めず居場所をなくし、それが高じて引きこもりへと至ってしまったようでした。

このAさんの話から感じたことの1つは、認知療法で過度の一般化と呼ばれている自動思考の存在です。
ちなみに自動思考とは無自覚な思考のことで、過度の一般化とは物事をある1つの傾向のみに集束させて解釈する画一的な思考パターンのことです。

今でもマスメディアでは、バブル期がAさんの話のように語られることが少なくありませんが、実際は(私もその1人でしたが)バブルの好景気の恩恵をほとんど受けなかった人が少なからずいます。
実際は業種や職種による格差が非常に大きかったのです。

それにも関わらず、Aさんは上述の自動思考の働きにより、誰もがそのような生活を送っていると考え、それゆえ「自分は誰とも価値観が合わない」との思いに駆られため、関係を断つ方向へと進んで行ったのではないかと考えられます。

自動思考「全か無かの思考」

それにしても周囲の人と価値観が合わなかったとはいえ、なぜAさんは人々との関係を断ち、社会から引きこもる道を選ばれたのでしょう。他に選択肢はなかったのでしょうか。

この点を探る際にヒントとなったのが、次に登場したBさんの発言です。
Bさんは物事を二つに一つで判断する、つまり選択肢を2つに限定しがちなことで苦労されているようでした。

このBさんの状態は、先の認知療法の自動思考では全か無かの思考と呼ばれています。
この「全か無かの思考」が人間関係や社会との関わりに適用されると、選択肢は関係を続けるか断つかの2つに1つしかないため、上手く行っている間は関係を続けますが、少しでもギクシャクすると途端に関係を断つことになります。
そこには関係の修復や他の関わり方を探るという第3の選択肢が存在しないためです。

人間関係や社会との関わりにおいて、居心地の悪さを感じた時に、引きこもりという極端な状態へと至ってしまう人には、Bさんがそうであったように、多分にこの「全か無かの思考」が働いているのではないかと考えられます。

世間の人々への蔑みの感情

またもう1つの要因を探る際にヒントとなったのがAさんの、バブル景気に浮かれる人々への「自分はそのような人間にはなりたくない」旨の発言です。

人がこのような発言をするとき、そこには対象に対する強い蔑みの感情が存在します。
価値が著しく低いと感じるからこそ、そのようになってしまうことを何としても避けたいとの思いが生じます。

もしこの感情と共に、前述の「過度の一般化」や「全か無かの思考」が存在していたとすれば、社会とは自分にとってまったく価値が感じられない事柄で満ち満ちているものとなり、そこから逃れようとすれば接点を断つしかないとの発想に至ってしまうでしょう。

ですからこの蔑みの感情は、引きこもりの要因となるだけでなく、「全か無かの思考」の影響を受けてその状態を維持する、つまり解決を阻む要因ともなっていると考えられます。

社会の同調圧力の過大視と自己評価の低さ

また番組の内容から示唆されることとは別に、社会の価値観に自分が染まらないためには完全に関係を断つしかないとの発想には、社会の同調圧力の過大視自己評価の低さ(この場合は自己の能力に関する評価)も関係しているように思えます。

社会の目に見えない同調圧力は有無を言わせないほど強力なものであり、自分がそれに対抗することなど到底無理…だから社会で生きていくためには、どれほど苦痛であってもその価値観を無条件に受け入れそれに従う(ニュアンスとしては絶対服従)しかない、それが嫌なら社会との接点を完全に断ち切り引きこもるしかない…
このような社会との力関係の想定もあるのではないかと考えられます。

補足)この力関係の想定には「自己愛講座8」などで取り上げた「理想化-価値下げ」の防衛機制が働いているものと考えられます。
この場合、社会の同調圧力が過大視され、その反面それに対抗する自分の精神力が過小評価されています。

認知療法における自動思考の概念 参考文献

大野裕著『こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳』、創元社、2003年

次のページでは、番組から感じられたこととして、引きこもりの当事者の方がサポートを受ける際にネックとなりそうな事柄について記述します。

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